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Recording Report

言ノ葉ノ世界 収録レポート


※本レポートには内容のネタバレが含まれます。ご注意下さい。

先日『言ノ葉ノ世界』の収録に行ってまいりました。
今回の作品はディスク2枚組ということで数日に渡って収録が行われました。

収録当日。続々とキャストの皆さんが集まってこられます。
皆さん開始前から真剣なご様子で、ブース内には心地よい緊張感が漂っていました。

テスト前、まず作品のテーマやキャラクターについての話し合いがじっくり行なわれました。
本作は前作の『言ノ葉ノ花』のパラレル作品ということで、以前の作品についてや、前作のキャラクターの今作での役どころなどが説明されました。
またこの作品の重要なファクターである『心の声』をどのように音で表現するのか、それぞれ難しいキャラクターをどのように演じるべきか。
綿密なディスカッションを行い、テスト収録へ。

テストでは、音だけでキャラクターの表情や動き、雰囲気までを聴く側に伝えられるように、また原作の意図するものをどれだけ伝えられるか、
キャストの皆さんには数パターンを演じて頂きながら、基本ラインを調整していきます。

仮原役を演じられる三木さん。
幼い頃から他人の心の声が聞こえるキャラクターということで、どことなく空虚な渇いた雰囲気で演じて下さいました。
心情を語るモノローグやナレーションの部分では淡々としたトーンで、台詞の部分では明るく振舞ってみたり、悪態をついたり…と
メリハリをつけて仮原を表現して下さいました。キャラのイメージにぴったりということで、そのまま本番へ。

藤野役を演じられる平川さん。
優しい落ち着いた声音で、藤野の人の良さを的確に表現して下さいました。まさに藤野そのものといった雰囲気に、先生、スタッフもにっこり。
ここで平川さんから藤野の役作りについて質問がありました。

平川さん 「藤野はピュアなキャラクターなんですが…彼のそういう部分を周囲の人は胡散くさいと思っているじゃないですか。
音の表現として考えた時に、優しすぎて胡散臭いほど、もっと分かりやすく表現した方がいいんでしょうか?」

脚本上では、藤野の台詞の後に他人の心の声で「胡散くさい」等と思っている部分があるため、それを意識して演じた方がいいのか? 
と悩まれる平川さん。

三木さん 「他人の心の声の部分は気にしなくていいんじゃない? だって藤野には聞こえてないんだから。
彼は自分らしく振舞ってるだけなんだから、今やったとおり、優しさをそのまま出したらいいと思うよ」
P 「そうだね。藤野は本当にいい人で、周りが汚れてるから、逆に彼が胡散臭く感じるだけなんだよね。
他人の心の声の部分は気にせず、本当に裏表のない、いい人というスタンスで大丈夫だと思います」
平川さん 「はい、分かりました!」

三木さんとプロデューサーからのアドバイスに頷かれた平川さん。
役をかみしめるように、何度も何度も台本をめくり確認される姿が印象的でした。

占い師役の神谷さん。
今回の役どころは、『言ノ葉ノ花』で登場した余村と限りなく近い人物になります。
『言ノ葉ノ花』のエンディングとは別の終わりを迎えた二人…という設定です。

テストでは、前作の数シーンを試聴し、キャラクターを確認した後、あれから10年の月日が経っているということで、
低い落ち着いた雰囲気で演じて下さいました。
更に原作者の砂原先生より「シュウと別れて荒んだ生活を送っていたので、その辺を意識してもらえると…」というリクエストがあり、
すぐさま演技に反映して下さる神谷さん。
演じられるキャラクターが前作を踏まえた、でも別の人間という特殊な設定に、役作りについて色々質問が出されました。

神谷さん 「彼は今こういう切ない状況にあって、僕としてはもう諦めの入った感じかなと思ってるんですけど、
もっとギスギスした、尖った感じの方がいいですか?」
P 「神谷君の考えてる方向性で大丈夫だよ。力を抜いて、基本的には台詞の部分では感情をあんまり出さないくらいでOKです。
でも心の声や高ぶったりするところは気持ちを表していいからね。メリハリをつけて行きましょう」

真剣な面持ちの神谷さん。今回の作品では重要な役どころなだけに、キャラクターの確認を熱心にされていました。

シュウ役の小野さん。
前作で演じられた長谷部のキャラクターを確認された後、今回のシュウの立場や役どころについて綿密なうちあわせを行いました。
前作からどういう経緯でこうなっているのか、10年間彼はどんな風に暮らしてきたのか。
原作ではあまり語られていないシュウについて、詳しく先生に質問されていました。
テストでは、前作を踏襲し、あまり感情をうまく出すことができない、無口な感じを出しつつ、年齢による落ち着きを少しプラスして演じて下さいました。
さらにその上で、シュウが登場する場面は、クライマックスの感動の再会の場面のため、それでも感情が高まって溢れだしている様子を
表現して下さり、一発OKとなりました。

その他の各キャラクターの的確なイメージや要望などもキャストの皆さんに伝えられ、キャラクター設定が終了しました。

物語は、仮原のナレーションから始まります。
幼い記憶。母親と仮原のやりとりがとても痛ましく、思わず冒頭からぐっと胸が苦しくなります。

仮原を演じられる三木さんは、心の声が聞こえるという難しい役柄を熱演して下さいました。
その特殊な能力を活かして老人から財産を相続したり、ずる賢く生きていた仮原。
世間に斜に構えてつきあいつつも、その能力故に、周囲に対して絶望や諦めを心の奥底に抱えている彼の、内面の空虚さや
厭世観を三木さんが見事なまでに表現して下さっています。
見えるところでは明るく振舞ったり怒ったりしながら、その後ろでモノローグで語られる抑えた、どこか薄暗い心情のギャップが胸をうちます。

そんな仮原が出会った、心の声と口から出る言葉が全く同じ人間――藤野。
その輪唱のような『声』が心地良く、軽い気持ちで藤野と付き合いだしてからだんだん変化が訪れます。
藤野の存在に癒され、彼にどんどん惹かれていく仮原の、揺れ動く心情を繊細に表現して下さる三木さん。
「好きだと言ってほしがってるから」とうそぶきつつも、藤野の嘘のない優しさに触れ、彼を愛するようになる様を
声のトーンや話し方を微妙に変えつつ、的確に表現されています。
三木さんの演じられる仮原の感情の動きにご注目下さい。

藤野を演じられる平川さん。
仮原の言動に振り回されながらも、彼を受け止めるあたたかい雰囲気や、落ち着いた優しい雨のような台詞回しが藤野のイメージにぴったりでした。
正直で優しすぎるが故に周囲とうまくいかず、淋しさを抱える藤野。
自分の全てを知ればがっかりすると言う場面や、その性癖のせいで家族がバラバラになってしまったことを語るシーンでは、
どこか陰のある、悲しさを滲ませた演技によって、藤野の心情や寂しさが痛いほど伝わってきます。
平川さんの震える息や紡ぎだされる台詞が、切なく胸をうちます。

占い師役の神谷さん。
落としたラインで話しているかと思うと激昂したり、振り幅の大きい役どころを自在に表現して下さいました。
作中、仮原に怒りを爆発させるシーンがあるのですが、抑えた中にも占い師の絶望や恨みなどがフツフツと感じられるような表現はさすがの一言です。
実は占い師の感情が高ぶっている場面では、一人称が『俺』から『僕』に変わり、思わず昔の自分(余村)が現れるのですが、そこにもご注目! 
顎をしゃくったり、身振り手振りをしつつ演じられる神谷さん。
その様子に、キャラが生きているような感じがするのはこういうところから来るのかと感心しきりのスタッフ一同。
シュウのことを語る場面も、どこか遠くを見るように語られ、その達観したような台詞まわしの中からも、
隠しきれないシュウへの想いが痛いほど伝わってきました。
シュウと再会するラストシーン。神谷さんが声をかすれさせ、息を震わせて紡がれる占い師の本音に胸が震えます。
涙なしには聞けないシーンです。

シュウ役の小野さん。
出番は多くないですが、シュウが登場する場面は小野さんの熱演のおかげで本当に素敵な場面に仕上がっています。
10年間探していた愛する人に再会し、彼の中で渦巻く様々な感情を抑えきれず、はっきり言葉が出てこない――。
ゆっくりかみしめるように、一言一言を大切に発される小野さん。抑えた中にもシュウの溢れんばかりの想いが詰まってることが伝わってきます。
気持ちが高ぶるあまり、涙をこらえるようなアドリブが入る場面も。本来泣くという表記はなかったのですが、気持ちの入ったその演技に
「今の方が素敵なのでこれでいきましょう」とOKが。万感の思いがこもったラストシーン、本当に心があたたまります。

今回の作品はとにかくどこをとっても心に迫ってくる場面ばかりなのですが、キャストの方々、スタッフ一同、
それぞれのキャラクターに感情移入するあまり、収録中、役と一緒に全員が一喜一憂していました。

特にディスク1のラスト、自分から離れていこうとする藤野を必死で引き留めようとする仮原のシーンは、お二人の演技が本当に素晴らしいです!
嘘をつかない藤野が彼を恐れてついた嘘――。
藤野の本当の心を知って絶望し、彼の前から去ろうとする仮原。そんな仮原を追いかける藤野。
心の声を聞くのが怖い。藤野の本当の気持ちを知るのが怖い。
絶望に震えて涙する仮原と傷つけられた痛みと恐れを感じつつも、そんな彼を放っておけない藤野のやりとりがあまりに切なくて、
苦しくて息ができなくなりそうでした。
泣きながら縋る仮原と、それを受け止める藤野。
演じられながら、お二人も本当に涙ぐんでいらっしゃり、そのあまりの熱演にスタッフの目からも涙がこぼれました。

そしてディスク2の物語終盤、藤野を愛し、『心の声』の件で嫌われたくなくて、彼と会うことを避けてしまう仮原と、
そんな彼に『心の声』で話しかける藤野のシーンも必聴です。
『心の声』で自分の本音を話しているのに、信じてもらえない――。
愛し合っているのに、心の声すらも聞こえているのに、それでもすれ違ってしまう二人。
三木さんと平川さんの迫真の演技に、スタジオが静まり返り、涙をこらえるのに必死で言葉がでませんでした。
まさにクライマックスにふさわしい感情と感情のぶつかり合い。息を飲んでしまうほどのお二人の熱演に、圧倒されることは間違いありません。
胸が痛くなるような、心を揺さぶるシーンに仕上がっています。

そして、肌を合わせるシーンは、原作を忠実に再現した内容になっています。
藤野がゲイだと知ってのからかい混じりの行為や、藤野や藤野の周囲への怒りをこらえきれず乱暴に抱く場面、想いが通じ合って、
愛情たっぷり、幸せに溢れた場面。どのシーンもそれぞれ原作の雰囲気を大事に丁寧に演じて下さいました。
何と言っても最中の『心の声』がたまりません! どの場面も色っぽさはもちろん、どこか切なさの漂う聞き所たっぷりの場面に仕上がっていますので、お楽しみに。

心の声が聞こえることでずる賢く生きてきた仮原と、真っ正直に生きてきた藤野。そして占い師とシュウ。
登場人物達のやりとりに耳を澄ましているだけで、思わず胸が痛くなって涙がこぼれそうになる、そんなシーンがもりだくさんのこの作品。
こぼれる息一つまで細かく調整しながら、繊細な世界観を丁寧に紡ぎ上げました。
前作『言ノ葉ノ花』とあわせて、じっくりと聞いて頂ければ幸いです。

以上、キャストの皆さんの熱演により収録は順調に進み、無事本編が終了となりました。

本編終了後、購入特典のフリートークでは、キャストの皆さん方が楽しいお話を繰り広げて下さっています。
収録中の様子や印象に残っているシーン、キャラクターについてや共演のご感想など、ここでしか聞くことが出来ないお話が詰まっています。
お疲れでありながらもやりきった感いっぱいの三木さんと平川さんや、飄々とした様子の神谷さん、一人で寂しい小野さん(笑)が、
もし心の声が聞こえたら? というテーマトーク等にお答え下さっています。
他にも、小野さんから神谷さんへの伝言? など、盛りだくさんの内容になっていますので、皆さんお楽しみに!

2011年1月28日発売、『言ノ葉ノ世界』。皆さんぜひお楽しみ下さい!!

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